「タンゴをより深く追求したい!」という思いでアルゼンチンに渡ったタンゴダンサーのあかねさん
2016年7月21日 海外在住日本人インタビューアルゼンチン
ロコタビは海外在住日本人が輝ける場所を提供する「日本人のための海外プラットフォーム」。
この記事では、現在海外で活躍中の日本人の方に直接インタビューし、現地での事や海外に行くまでの経緯、日々の生活などをご紹介します。
今回インタビューさせて頂くのは、2016年1月からブエノスアイレス在住のあかねさんです。あかねさんはアルゼンチンタンゴのダンサーで「タンゴをより深く追求したい!」との想いからブエノスアイレスに住む事をたった1ヶ月で決断し、その3ヶ月後にはブエノス・アイレスで生活をスタートさせたという情熱的で行動力のある方です。
さっそくお話を聞いてみたいと思います。
アルゼンチンに住むことになった経緯を聞かせてください
2015年の8月にタンゴの世界大会があり、友人が出場したので、応援と旅行を兼ねて初めてブエノス・アイレスに来ました。初めてのブエノスは何もかもが新鮮で、「いつかここでタンゴを勉強できたらいいな。」と夢見たのですが、その時は「いつか」と思っていたので、特に「いつか」を決めることもなく帰国しました。
でも結局、帰国して1ヶ月ぐらいで思い立ち「私、ブエノスに行く!」と準備を始めてました。(笑)
たった1ヶ月で決断したなんて凄いですね!
そうですね。1ヶ月で決めて、3ヶ月後にはここで生活を始めていました。(笑)
アルゼンチンタンゴは東京でも習っていましたが、タンゴは踊りだけではなく「文化」でもあるので、私はその文化を含めて、ブエノスアイレスで自分が実際に触れたり、感じたり、聞いたりした事を踊りに表現できるようになりたいと思うようになって。
あとは、ちょうど30代半ばに差し掛かってこれからの人生を考えた時に、今だからこそ出来る事をちゃんとやっておきたいという思いが強くなって、死ぬまでにやり残したことがあるとしたら「何かを追求した」「自分はこれをやった人間だ」という、自分自身に胸を張れることが私には無いなって思ったんです。
それがタンゴだったらいいな、という気持ちと、「いつかブエノスでタンゴを勉強したい」とは思うものの、ふと「いつか」っていつ来るのかな?と考えた時に、結局自分が動かないと「いつか」っていうのは一生来ない事に気がついて「今、行こう!」と決めました。
アルゼンチンに住むと決めた時、周りの反応はいかがでしたか?
両親はとても心配していました。日本にいると「アルゼンチン」て南米ということぐらいしかわからない国ですし。私自身、まさか自分がアルゼンチンに住むなんて想像もしていませんでした。ある方に「あかねちゃんは世界を見た方がいい。行っておいでよ!」って言われたことがあったんですが、その時は「絶対無理」だと思っていました。その方に「ブエノス行くと決めました。」と報告した時は、行くという決断ができた自分が少し誇らしかったです。もちろん、その方はとても応援してくれました。
アルゼンチンに来てから自分の中で何か変化はありましたか?
自分でも気がついていなかったのですが、日本では窮屈さを感じていたのかもしれません。日本に居た時は少しでも「普通」という一般論に近づけるように努力をしていたけど、アルゼンチンでは素のままの自分でいられるというか、私が私でいて良いのでとても楽ですね。「普通」に合わせる必要がないんです。今は「普通」である事よりも「私という個人がどうあるべきか」を考えるようになりました。
それから以前は「無理だな」「これ向いてないな」と思ったら、わりとすぐに見切りをつけて、逃げたり回避したことを、今は「この状況をどうやって乗り越えられるか」を自分で心底考えるようになって、自分を信じてあげられるようになりました。自信が持てるようになって来たのはもちろん周りの方にたくさん支えて頂いているからこそですけど。みなさんに良くして頂いていて本当に幸せだな、と思います。
ブエノスでは、毎日のようにデモはあるし、時間通りに物事は進まないし、欲しいものは手に入らないし、物価はどんどん高くなるし、思い通りにいかない事ばっかりで、日本みたいにスムーズなタイムスケジュールも組めないので生産性も凄く低いんですけど、「私、地に足をつけて踏ん張っているな」と思えるので、今の自分の方が日本にいた頃の自分より好きですね。
ブエノスアイレスでの生活について教えてください
今はいろいろな先生のタンゴのレッスンを受けたり、夜はミロンガで踊ったり、スペイン語の勉強のために語学学校に行っています。
ミロンガは夜に開かれるダンスパーティーもしくは社交場です。タンゲーロと呼ばれるタンゴを愛する人や、ミロンゲーロと呼ばれるミロンガを愛する人たちが集まってタンゴを踊っています。
ミロンガは入場料を払えば誰でも参加できます。ミロンガでは
に踊りたい相手を目で誘うんです。カベセオと呼ぶのですが、目線で「踊りたい」という気持ちを伝えるんです。男性は女性を誘うことができるのですが、女性は男性を誘うことができないので、目線や仕草で女性は男性に誘わせます。目線があって気持ちが合えば「踊ろうか?」となるわけです。そこに言葉は無いんです。
現在タンゴに熱心なあかねさんですが、近い将来やりたい事や次の目標などはありますか?
アルゼンチンと日本を繋ぐようなことをやってみたいな、と思っています。タンゴの文化を日本に伝えるのはもちろん、アルゼンチンのことをもっと日本の方に伝えたいです。私もこちらに来る前に色々と調べたのですが、アルゼンチンの情報ってまだまだ少ないんですよね。 また、日本人にとって「アルゼンチンといえばサッカー」というイメージが強いですが、サッカー以外にもアルゼンチンの素晴らしいところはたくさんあります。芸術的なセンスも高いですし、いろんな国からの移民国家なので文化も豊富ですし、価値観も様々ですごく楽しい国だと思います。
アルゼンチンのコトを教えてください
アルゼンチンの人は日本や日本人に対して、すごくいい印象持ってくれていると思います。
アジア人ってみんな同じ顔に見えるので「チーノ(中国人)か?コリアン(韓国人)か?ハポンネッサ(日本人)か?」と聞かれるんですけど「ハポンネッサ(日本人)」って答えるとみんな喜ぶんですよ。「日本人のようによく働きなさい」とか、日本や日本人を模範にするような言葉もあって、アルゼンチンの人たちにとって日本は「素晴らしい国」「美しい国」という風に思われています。パレルモに日本庭園があるんですけど、アルゼンチンの人も大好きで「あの日本庭園は素晴らしい」とみなさん仰いますね。
アルゼンチンの好きなところは
家族を凄く大切にするところですね。日本だと家族間でもコミュニケーションが行き届かないことってあったりすると思うんですけど、そういうのがないというか。自分の友達の集まりにもお母さんも来たり、彼女ができればすぐ家族に紹介しますし、何かあったらすぐ家族!という感じで、家族を大事にしているところがとても好きです。
日本とアルゼンチンの文化の違いについて
違うなと感じるところはたくさんありますね。
アルゼンチンでは「自分がどうしたいか」がとても重要です。アルゼンチンに来てどうしたらいいか分からない時に相談するといつも「あなたはどうしたいの?」と聞かれました。日本人的な考え方で「みんなはこうかもしれないから、私はやめておいた方がいいのかなぁ」と思っていたことも、この国では「自分がどうしたいか」が判断基準です。アルゼンチンは「自分の気持ち」を尊重して良い国なんだと知りました。だから自分だけでなく相手の意見や選択をとても尊重する文化なんです。
実際にアルゼンチンの人は自分の気持ちをハッキリ言います。例えば、誰かに食べ物を勧められたら、お腹がいっぱいでも悪いかな、と思って「すこしだけ。」とか言って食べちゃうのが日本人だと思うんですけど、ブエノスでは「ありがとう、でもいらないわ」とハッキリ言ってくれるので分かりやすいです。
あとは、感謝の気持ちを受けれ入れるところが違いますね。例えばこちらが「ありがとう!」って言った時に、日本だと「いいえ。そんな。とんでもない。」って言うやりとりがあると思うんですけど(笑)私は、それは「ありがとう」と言ってくれている感謝の気持ちを押し返しているように感じていました。アルゼンチンだと「De Nada.(どういたしまして)」と必ず言うんです。どういたしまして、という言葉には、「そう、あなたのためにしたのよ」っていう気持ちが嫌味なく伝わってくるところが私は好きです。
アルゼンチンで暮らす上で心得ておいた方がいい事
場所にもよりますが、治安は悪いです。私も初めて行く地域は治安が良いか悪いかは事前に確認します。もし治安の悪いところに行く時は注意しますね。バッグを前に持つ、携帯は出さない、なるべく早足で歩くとか。あとは暗くなったらタクシーに乗るようにしています。旅行者の方は特に、夜は絶対にタクシーで移動した方がいいと思います。日本のように、「数ブロックだから歩けそう」という場合でも注意した方が良いです。アルゼンチンの人も、治安や盗難にはとても警戒しています。治安に関しては、日本とは大きく違うので日本の感覚で来てしまうと痛い目にあってしまうかもしれません。
アルゼンチンに旅行で来る方へのアドバイス
歩きやすい靴で来た方がいいと思います。歩道はガタガタなところも多く、犬の落し物も多いので、帰国したら捨てても良いくらいの靴で良いかもしれません。
あとは先ほどもお話しましたが、やはり治安ですね。特に初めてこられる方は、事前にちゃんと調べるとか、知人を頼るとか、ロコタビを使ってロコにガイドをお願いした方が安心して楽しめると思います。私もロコタビでオーダー頂いた方には、治安面でのアドバイスやタクシーの乗り方などお伝えするようにしています。
私自身も「大丈夫かな?」という不安な気持ちを抱えてアルゼンチンに来たので、不安な気持ちは痛いほどよく分かります。ロコタビを通してそういう方の力になれたら嬉しいです。
ロコタビについて教えてください
実際にロコとして活動されてみていかがですか
すごく楽しいです!いろんな方がいらっしゃって、いろんな人の話しを聞く事が出来るのが楽しいですね。旅先にアルゼンチンを選んだ経緯やご家族の事など。アルゼンチンに居ても日本に居ても知り合えなかったような方々と知り合えるので、すごく良い経験をさせてもらっています。お客様のオーダーに合わせて色々と調べたり事前準備をすることで、よりアルゼンチンの事を知る事が出来るのも良いですね。
印象的なエピソードはありますか?
世界一周をされていた方がブエノスで両手を大火傷してしまい、お手伝いさせて頂いた事があります。病院のスペイン語での説明がわからなくて怪我の状況に不安があるとのことで、日本人のお医者様を探して往診して頂きました。先生が適切な処置をしてくださったおかげでそのまま旅行を続けられたのですが、とても心配でした。後日無事に日本に戻られたという連絡を頂き、本当に良かった、と安堵しました。
最後にブエノスアイレスのお気に入りの場所を教えてください。
私は日曜日のサンテルモが好きです。石畳の道だったり、アンティークのお店が並んでいたり、野外ミロンガを楽しんだりしています。タンゴが生まれた街はボカという場所なんですが、タンゴが育った街はサンテルモと言われているんですね。タンゴを育んだサンテルモという街が凄く好きですね。日曜日は大きなセリア(蚤の市)もあり、賑わってお店もたくさん出ていて楽しいですよ。
いかがでしたか?
タンゴを追求する真っ直ぐで凛とした雰囲気と、気さくで明るい雰囲気を持ち合わせているあかねさん。アルゼンチンタンゴやミロンガに興味がある方はもちろん、アルゼンチンを訪れるのが初めての方にもオススメしたいロコさんです。
あかねさんのプロフィール
趣味は美味しいアイスクリーム屋さんを探すことです♬
ブエノス・アイレスで毎晩開催されるミロンガ情報やタンゴのドレスショップの紹介、タンゴ教師の紹介を提供できます。
また、ブエノス・アイレスで初めてのタンゴを一度経験してみたい、という方には英語、日本語で受けれる初心者のクラスの紹介、同行を行います。
ぜひ、タンゴの本場ブエノス・アイレスでタンゴに触れる時間のお手伝いを させてくださいね。
[取材・編集:三谷めぐみ]